ブックタイトル平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

査を行い、人道開発支援が、1略奪、2市場への影響(国内経済の歪曲化)、3分配の影響、4援助の代替効果、5援助の正当化効果(武装勢力の権限の強化)という負の影響を紛争に与えているとし、このような負の影響ではなく、逆に平和に寄与するように支援計画を立案しなければならないとしている36。1と2はこれまでに説明してきたが、3から5について簡単に触れておく。まず「分配の影響」とは、仮に対立するAとBという被災集団があったとすると、供与された支援をめぐって不当な差が生じた場合、それは両者間の対立を悪化させるというものである。つぎに「援助の代替効果」であるが、これは、一旦、外部から支援が入ると、紛争当事者は住民の福祉に注意を払う必要がなくなり、現地にある資源を戦闘遂行のために投入できることなり、結果的に紛争が長期化するこという37。最後の「援助の正当化」とは、つぎのようなことである。紛争当事者はしばしば人道支援物資に課税したり、移動の自由を制限する場合がある。人道機関がこれを拒否すれば、紛争当事者からの嫌がらせを受けるか、撤退を余儀なくされる。逆に、このような状況を避けるために、紛争当事者に従うことは、結果的に彼らの権威を高めることになるというのである38。このように、人道危機の原因である武力紛争の解決なしには被災者の人命を救うこともできないため、人道支援は現地の人々の平和へ向かう努力を支援する形で供与されるべきであるとアンダーソンは主張する39。4古典派人道主義に対するこれら4つの批判0を基盤に、「新しい人道主義」は人道支援の1軍事化、2政治化への支持を表明するのである41。3)「古典派人道主義」からの反論「新しい人道主義」に対し、「古典派人道主義」の立場を採るICRCからいくつかの批判が上がった。元ICRC総裁のコルネリオ・ソマルガは、人道支援が政治的影響から免れることはできないが、人道・政治・開発の境界が完全になくなったわけではないとしている42。また元ICRC事務総長のピエール・クレヘンビュールも、人道支援が軍事や安全保障概念に統合されてしまうと、被災者のニーズへの対応が敵対者を敗北させるための戦略の構成要素と見なされてしまう危険性を指摘し、人道原則は現在でも人道支援を展開ための指針として妥当性を有していると指摘している43。36メアリー・アンダーソン著/大平剛訳『諸刃の援助紛争地での援助の二面性』明石ライブラリー,2006年.37同上.38同上.39同上.40前掲33.マクレーはこれら4つの批判の共通点として、1人道支援は紛争を悪化させる(人道危機の安全保障化)、2人道支援は政治的機能を果たすべきである(人道支援の政治化)、3紛争解決の主要な責任は紛争当事国または紛争当事者にあると主張している点を挙げている。41Weiss, T., Humanitarian Intervention, Cambridge, Polity Press, 2012, pp.87-89.42 Sommaruga, C.,“Humanity: Our Priority Now and Always: Response to“Principles, Politics,and Humanitarian Action,”Ethics & International Affairs, Vol.13, pp.23-28.43Krahenbuhl, P.,“The ICRC’s Approach to Contemporary Security Challenges: A Future for27