ブックタイトル平成28年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育研究事業報告書

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概要

平成28年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育研究事業報告書

ジリエンスが高い学生ほどコミュニケーション・スキルが高いことを示した。特に、獲得的要因と比較的強い正の相関関係を示した「解読力」「他者受容」「関係調整」は対人関係マネジメントを促進する役割を持つスキルである。ほぼ全学年で獲得的要因との関連性が確認されたことから、これらのスキルを習得することでレジリエンスが向上する可能性が示唆された。しかし、「他者受容」のうち共感性と友好性の項目、「関係調整」の関係重視、関係維持の項目は、社交性や親和欲求といった個人のパーソナリティとの関連も強く、系統技術などの技術的スキルのように急速に向上することは期待できない(藤本, 2013)。谷口・宗像(2010)は看護師のレジリエンスを高めるプロセスとして、「良好な支援認知」が「ソーシャルスキルの効力感」あるいは「良好な自己認知」に影響してレジリエンスを向上させるという漸次的な因果構造であることを明らかにしている。つまり、臨地実習や演習プログラムなどを通して、看護学生特有のレジリエンスの構成要素である「信頼できる他者から学生が受ける支援(隅田・細田・星, 2013)」として、教員がコミュニケーションモデルになることや肯定的評価のフィードバックを積極的に行うことで、学生との良好なコミュニケーションを促進させ、学生が肯定的な自己認知ができるような意図的なかかわりが重要と考える。一方、表出系スキルの一つである「自己主張」は、レジリエンスとの関連に学年によるばらつきがあった。「自己主張」は「関係調整」スキルとともに対人葛藤マネジメントに重要な役割を果たすスキルである。自己主張のENDCOREs得点は学年よる差がないにも関わらず、4年生で資質的要因かつ獲得的要因で正の相関関係が認められたことから、4年生ではレジリエンスの高い学生が柔軟に論理的に自分の意見を述べる傾向にあることが窺えた。4年間の看護学生としての生活は、自我同一性を獲得する時期と重なるため、友人や家族、教員、臨地実習指導者等、自分と関係する人々の間で生じる様々な葛藤から、傷つき、悩み、回復する過程を経験していることが推測される。このストレスフルな状況からの回復にはレジリエンスが影響するため、このような経験を繰り返すことで、4年生ではレジリエンスの高い学生が、対人葛藤マネジメントのスキルである「関係調整」と「自己主張」を効果的に使用できるようになり、葛藤で生じたストレスフルな状態を早期に回復できると考えられた。医療の現場では意見の対立や感情の対立など様々な対人葛藤を経験する。それらの葛藤が生じた際に回避や服従といた対処ではなく,接近―協調方略を選択できる準備段階として、コミュニケーション・スキルの向上とレジリエンスの強化を図れるとよいのではないかと考えられた。(4)研究の限界と今後の課題本研究の限界は、レジリエンスに影響を与える要因として、対人コミュニケーション・スキルと臨地実習に対する評価の2つの側面で検討したことである。レジリエンスにはソーシャルサポート、個人の自尊感情や精神的脆弱性との関連が示唆されている(斉藤・岡安, 2011;平野, 2012 b)。2年生でレジリエンスが一時的に低下していたが、今回調査11