ブックタイトル平成28年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育研究事業報告書

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概要

平成28年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育研究事業報告書

具体的なスキルの獲得とともに、ストレスフルな状況を乗り越える力を育むことが重要である。ストレスを乗り越える力を向上させる支援は、看護基礎教育の時点から継続して行われることが望ましい。教育心理研究やストレス研究では、ストレスから回復するための個人の力をレジリエンスという概念でとらえ、近年、多くの研究が報告されている(庄司, 2009;石井, 2011;村木, 2015)。レジリエンスとは、「困難で脅威的な状態にさらされることで一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗り越え、精神的病理を示さず、精神的健康状態を維持・回復する」ことを指す概念である(小塩・中谷・金子・長峰, 2002)。このレジリエンスは、個人のパーソナリティに基づく認知・行動のみならず、ソーシャルサポートのような環境要因やコンピテンスといった獲得要因も含まれる概念であり、個人内要因(I AM)と獲得要因(I CAN)、環境要因(I HAVE)の3要因が抽出されている(Grotberg, 2003;森・清水・石田・富永ら, 2002)。個人のレジリエンスは、これらの要因のいずれかによって導かれていると考えられ、誰もが保持し、高めることができるといわれている(小塩ら,2002;Grotberg, 2003)。また、レジリエンスの概念に注目した青少年の健康教育プログラムでは、自律性や内的統制感、根気強さや楽観性、学業コンピテンスや自尊感情といった個人の心理的特性以外に、アサーションや情動調整、援助要請や問題解決能力、幅広いソーシャル・ネットワークの形成といった社会スキルの向上を狙いに掲げている(Blum,1998)。すなわち、レジリエンスを高めることは、個人の自律性を促すだけでなく、問題解決における社会スキルを伸ばすことにもつながることを示している。看護師を対象にした研究では、看護師のレジリエンスの構成要素は、獲得要因として「問題解決力」「コミュニケーション」「創意工夫」「ユーモア」「サポート獲得力」「責任感」が、個人内要因として「好ましい気質」「情緒の安定性」「共感性」が示されており、このほとんどが経年的に向上することが報告されている(砂見・八重田, 2013)。特に獲得要因である問題解決・対人関係スキルは、自尊感情との関連が認められており(砂見・八重田, 2014)、レジリエンスの中でも獲得要因を高めることにより、ストレスに対する脆弱性の低下、並びに自尊感情の向上が期待できる。また、看護学生を対象にしたレジリエンス研究では、臨地実習の受け止め方への影響や臨地実習前後におけるレジリエンスの変化(山岸・寺岡・吉武, 2010)、臨地実習におけるレジリエンスの構成要因(隅田・細田・星, 2012)など、臨地実習に焦点化した報告が散見される。川上・池田・藤岡(2011)は、リスク状態を臨地実習に設定し、実習前後の看護学生のレジリエンスを比較した結果、実習後にレジリエンスが上昇する傾向にあり、実習というストレスに適応する能力を学生が獲得していることを報告した。これらの報告は、看護学生にとって臨地実習は、乗り越えなければならない大きなイベントとしてレジリエンスを発揮する機会であること、患者や実習グループメンバーとの相互関係から自己理解や問題解決方法、良好な関係を作るための対人コミュニケーション・スキルを学習し、レジリエンスを促進させる経験となっているといえるだろ2